日本医師会 COVID-19有識者会議では、実態調査に基づく適正なPCR検査の利用推進を目的とした「COVID-19感染対策におけるPCR検査実態調査と利用推進タスクフォース」を設置し、調査に基づく課題の抽出と整理、課題解決のための方策と提言をまとめ、すでに中間報告として公表した(5月13日)。
緊急事態宣言の解除後の社会・経済活動の再開に伴い、6月以降には感染者の急拡大が見られる。PCR検査の利用推進に対して環境・体制の整備が進む一方、利用に関して情報や考え方が十分整理されていない。本タスクフォースは、第二・第三波における感染制御と社会経済活動の維持の両面で、PCR検査の推進が必要と考えてきた。そこで今回、PCR利用者の理解を助けるために手引きを作成した。
エグゼクティブサマリー
PCR検査の利用目的
COVID-19感染対策におけるPCR検査は、検査目的と意義を理解したうえで、適切に利用することが重要である。
PCR検査の利用目的と意義は以下のとおりである。
- 患者の診断
- 公衆衛生上の感染制御
- ヘルスケアによる社会経済活動の維持
- 政策立案のための基礎情報
検査性能を踏まえた考え方
PCR検査の利用は、事前確率(有病率)、集団リスク(公共的影響)、経済的影響の3つの観点から考える。
- 事前確率が比較的高い場合:
- クラスター対策などの積極的疫学調査や個別感染症診療
- 事前確率は低いが(または不明だが)、集団リスク(公共的影響)や経済的影響が大きい場合:
- 空港検疫、院内感染対策、高齢者・福祉施設の施設内感染対策
- 無症状患者で、事前確率は低いが社会・経済的な影響が大きい場合:
- 海外交流、音楽・スポーツイベント、観光、特定のハイリスク職業のヘルスケア
1、2は、行政検査のPCR検査の実施、3は企業・自己負担で実施が望ましい。
これらの目的と意義を考えると、継続的な精度の確保と維持のもとに、事前確率によらずにPCRの利用を拡大することが必要である。
目的別のPCR検査の利用のポイント
- 患者の診療
- 患者の診療では、行政検査に求められる届出基準に基づき、PCR検査を実施する。各種検査(検体の種類、検査方法)の性能に基づき、有症状と無症状の患者に分けて運用する。
臨床的に疑われる有症状患者では、胸部CT検査等を追加して総合的に診断する。
無症状患者の入院では、院内感染防止のために、PCR検査とともに、入院前の厳重な行動制限によるリスクの最小化を図る。 - 保険適用となった行政検査の利用においては、施設要件となる検査協力医療機関として、具体的な手順と保険診療報酬の仕組みを理解した上で、その準備、申し出、指定、契約が必要である。
- 地域医師会への運営委託として行う地域外来・検査センターは、連携先登録診療所としての登録と、患者紹介に基づく利用が必要である。
- 患者の診療では、行政検査に求められる届出基準に基づき、PCR検査を実施する。各種検査(検体の種類、検査方法)の性能に基づき、有症状と無症状の患者に分けて運用する。
- 公衆衛生上の感染制御
- 保健所・衛生研究所による積極的疫学調査においては、地域の感染拡大防止のために、PCR検査の拡充とともに、報告までの日数を短縮することが不可欠である。
- 社会経済活動のための利用(ヘルスケアの枠組み)
- 感染制御とともに、社会・経済活動を継続するためには、ヘルスケアの枠組みでPCR検査の促進が必要である。
- 政策決定上の基礎情報
- 患者診療、公衆衛生、ヘルスケアにおけるPCR検査は、発生動向のサーベイランスとして重要であり、政策決定の基礎情報となる。
本解説書をもとに、PCR検査の利用目的それぞれにおいて、適切な理解のもとに適正な利用が推進されることが望まれる。PCR検査体制の拡充とともに速やかな報告体制が構築されれば、PCR検査は、社会・経済活動の起動の判断と対策効果の基本評価のための指標として活用されると期待される。