TOP / 緊急提言 / COVID-19流行第4波を最小限に抑えるための新たな対策戦略の提言

COVID-19流行第4波を最小限に抑えるための新たな対策戦略の提言

著者

COI(利益相反)

―積極的感染源対策とデータ駆動型対策への転換―

令和3年4月15日

我が国の二回目の緊急事態宣言は、外出の自粛と飲食店の営業時間の短縮という痛みを伴う対策により、一定の感染者数の低下をみた。しかしながら緊急事態宣言解除後、感染者数は再び増加し、都市部においては急速な感染拡大が起こっており、現在、4回目の流行の波を迎えている。また、遺伝子解析が進むにつれて、変異株が急速な勢いで日本中に広がりつつあることが明らかになっている。

日本のクラスター対応中心の対策は、流行当初は一定の効果をあげたものの、市中に感染が広がるにつれて軽症者・無症候感染者を早期に探知できず、感染拡大を防ぐことができない状況にある。その原因として、潜在的な感染源が地域に徐々に蓄積し、マスク、手指衛生、3密対策など、これまでと同様の感染経路対策と社会距離拡大の推奨を行っても、感染源の増加がその対策による効果を上回るようになってきたためと考えられる。現在の状況では、クラスター対策を中心とした戦略の限界が明確になりつつあり、流行拡大を抑制することは難しい。このまま感染者が増加すれば、医療体制は逼迫し、ワクチン接種体制にも影響を及ぶと懸念される。

本来、感染症対策は、サーベイランスに始まる。地域の感染状況がわからなければ、適切な対策を適切に講ずることはできない。特に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大きな特徴は無症候性感染者が多いことである。また感染者の症状も非特異的であり、その診断は容易ではない。現在の感染症法に基づく届出は、患者の受療行動と医師の判断に影響を受けるため、流行状況を把握することは困難である。さらに日本ではPCR検査等による積極的な検査体制も情報収集システムも確立されなかったため、感染状況を的確に把握されていない。このため、地域において新型コロナウイルスがどのように循環し感染拡大しているかに関する情報を得ることは出来ず、データに基づく対策につながっていない。すなわちCOVID-19の対策に必要な情報を持続的に系統的に収集・解析・評価し、対策に活かすことがサーベイランスであり、現状では十分なサーベイランスができているとはいい難い。

感染症対策の基本は、感染源対策、感染経路対策、宿主感受性対策の3つを適切に組み合わせて行うことである。「宿主感受性対策」については、ワクチン接種が始まっているが、日本においては実施が極めて遅く、医療従事者や高齢者などのハイリスク者に十分行き渡るまでに相当の時間を要すると予想される。変異株は、従来株に比して実効再生産数の上昇が報告されており、感染伝播が増加することや、野生株によって獲得した免疫やワクチンでは対処不可能な変異株が出現する可能性が増している。特に、ワクチン接種が不十分である場合や感染者数が多ければ多いほど、変異株が出現するリスクが高くなることに注意すべきである。

我が国では「感染経路」対策は、これまでマスク、手指衛生、3密対策の励行により感染拡大を防いできた。今後もこれらの対策は不可欠であるが、パンデミックの長期化に伴い、実施率が低下することは避けられない。同時に、外出自粛・飲食店営業時間短縮の効果も検証されないまま対応が長引き、国民生活の疲弊と経済悪化・雇用問題・社会格差などをもたらしている。すなわち現状の感染経路対策に主軸を置いた国民の自主協力に頼る対策は、持続可能性の観点で限界に達しているといえる。

一方、「感染源」対策のレベルを強化すること、すなわち、可能な限り、地域における感染源を発見して地域において非感染者と分離することは、強化の余地が大きい。当然のことながら、感染源が少なくなれば、人と人が接触しても感染が広がるリスクは減少する。これまで、日本では感染経路対策、つまり自粛・営業時間短縮等、人々の行動変容を中心に据え対策を実施してきた。しかし、行動変容一本鎗の対策が限界に近づき、「宿主」対策も諸外国に比し遅れを見せる中、感染症対策の基本に立ち戻り、感染源対策を強化しながらバランスの取れた包括的な対応をすること以外にパンデミックに対処する方法は残されていない。そうした観点から、以下の方策を提言する。変種ウィルスによる感染爆発が懸念される今こそ、早急に本方策を実行すべきである。

1)現状の感染状況を複数の異なる角度から評価できるような形で、サーベイランスを行い、そのデータ用いて感染リスクの分析を行い、データに基づいた対策に結びつける。サーベイランスとは「疾病の減少、死亡率の低下、そして健康状態を改善するために、健康に関連する事象を系統的に持続的に収集、解析、評価し、公衆衛生的対策に役立てるためにデータを還元する」ことである。これまでのように単に疾病と診断された患者の届出だけではなく、その他の感染対策のために必要な情報を収集する。

①全体の発生状況を俯瞰するために感染症法に基づいた届出疾患サーベイランスを継続する。但し、より精度上げるために(見逃しを少なくするために)、明瞭な症例定義を立てる。すなわち、37.5℃以上の発熱、あるいは急性呼吸器症状、あるいは急性発症の味覚・嗅覚障害のある症例はすべて疑い例として検査を行う。

②地域におけるクラスターの早期探知のためにイベント・ベース・サーベイランスを施行し、速やかに早期対応・疫学調査に結びつける。

③上述のイベント・ベース・サーベイランスによって得られたデータを元に、感染伝播のリスクの高い地域・業種・行動などを特定し、これらにおける集中的な検査(スクリーニング)により無症状者・軽症者の状況を把握して感染源を早期に特定する。

④地域において、地域に在住しCOVID-19患者との接触歴を持たず、急性上気道炎症状により地域の医療機関(標準的にはインフルエンザ定点サーベイランスの定点医療機関)を受診する患者において、ランダムに新型コロナウイルスの検査(抗原定性検査等)を行い、地域での蔓延状況を評価する。これは地域において感染するリスクの評価に繋がる。

2)これまでの感染経路対策は継続しつつ、感染源対策をさらに強化する。これには行政機関、研究機関、民間検査所を含めて検査体制を強化し、検査方法についてはPCR、抗原定量、抗原定性を現場の状況と実行可能性を優先して選択、実行する。効果的な感染源対策のためには、検査能力を最大限高めるとともに、地域の人口規模にあわせて対象地域を一挙に検査可能な体制を構築するとともに、欧米のように無料の検査を地域住民に提供する必要がある。

①地域において上気道症状のみられる患者さんについては積極的に新型コロナウイルス検査を行い診断に結びつけ、感染源として非感染者と分離する。すなわち受診した上気道炎の患者に積極的に検査することによって、可能な限り多くの感染者を探知する。

②上記1)-②での調査を通じて遡り疫学調査を強化する。人的資源の制約により難しい場合には、過去2週間の接触歴から、広くスクリーニングを行い、隠れた感染源を積極的に探索する。

③上記1)-③によりハイリスクグループ、地域、事業所において集中的な検査(スクリーニング)を行い、隠れた感染源を探索する。ハイリスクグループとしてのスクリーニング対象者には、高齢者施設の職員と入居者、医療機関の職員と入院患者、エッセンシャルワーカーを含める。 

④上記1)-④により陽性例が増加しつつある地域に対して、地域を限定した集中的な検査によるスクリーニングを行い、隠れた感染源を探索する。

⑤離島などの医療リソースの乏しい地域に移入する際は、移動前の2週間の健康観察とリスク行動を避けるとともに、フライト搭乗の前(到着72時間以内)のスクリーニング検査を考慮する。

⑥上記1)-②に記載したサーベイランスを継続し、サーベイランスから対策、そしてサーベイランスへのサイクルを推進する。

3)病原体サーベイランス体制の強化

①変異株のサーベイランス体制を充実させること

変異株のスクリーニング手法について、全国の各地域の大学・研究機関・医療機関の研究・検査部門、特定の民間検査所に技術移転を行い、また地域において、特定の変異部位(N501Y,E484K)に拘わらず次世代シーケンサにて遺伝子配列を検査出来るように支援を行い、体制を整える。変異株の急増が危惧される場合にはスクリーニング、ゲノム解析を行うサンプリング割合を最大限増加させることが重要で、当面最低限40%を達成する。

②検査室ベースのサーベイランスの整備

民間検査所のクオリティコントロールを行い、陽性者に対する届け出・隔離など対応に関する法整備を早急に行う。同時に検査結果は地域的にまとめて解析できるように検査室ベースのサーベイランス体制を構築する。

以上

感染症拡大抑制対策に関するタスクフォース

  • 委員長
    • 谷口青洲(COVID-19有識者会議委員)
  • 委員
    • 青木 眞(感染症コンサルタント)
    • 近藤太郎(近藤医院)
    • 渋谷健司(キングズカレッジロンドン人口衛生研究所)
    • 清水和希(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス保健政策学部)
    • 徳田安春(群星沖縄臨床研修センター)
    • 笠貫 宏(COVID-19有識者会議副座長)
    • 森澤雄司(COVID-19有識者会議事務局)
  • オブザーバー
    • 永井良三(COVID-19有識者会議座長)

関連記事