(2020年5月8日寄稿)
はじめに
新型コロナウイルス SARS-CoV-2 感染症 COVID-19 をめぐっては世界的流行の中、数多くの研究論文が発表されている。以前に発表した総説で言及した論文は原則として割愛した。
ここでは COVID-19 に関する情報を収集する上で、有用性が高いと思われる基本的に査読論文を紹介する。
診療方針
軽症から中等症の COVID-19 への対応
- Gandhi RT, Lynch JB, del Rio C. Mild to Moderate COVID-2019. New Engl. J. Med. Apr. 24, 2020 DOI:10.1056/NEJMoa2009249
COVID-19 重症例とは頻呼吸(毎分 30 回以上)、低酸素血症(酸素飽和度 93% 以下、または PaO2/FIO2 比 300 未満)、肺野浸潤影(24 時間から 48 時間の経過で肺野の 50% を超える)のような基準で考えられる。
重症の定義を満たさない軽症から中等症の症例であっても慎重な経過観察が必要である。
エビデンスのある治療方法は確立されておらず、可能であれば無作為化試験への組み入れを推奨するべきである。
この文献では発症から最短 7 日間かつ発熱や呼吸器症状が消失してから最短 3 日間の隔離を勧めている。
COVID-19 による呼吸不全への対応
- Marini JJ, Gattinoni L. Management of COVID-19 Respiratory Distress. JAMA Apr. 24, 2020 doi:10.1001/jama.2020.6825
COVID-19 による呼吸不全は、当初に肺コンプライアンスが比較的良い(”肺がやわらかい”)のに酸素化が不良で、PEEP の効果が期待されない肺野スリガラス病変が主体の病態であることが多い。多くの症例はこの病態のまま安定するが、一部は典型的な ARDS へ移行する。
当初には高流量経鼻酸素投与(HFNC)や CPAP 、Bi-PAP のような非侵襲的な補助が合理的である。
一方、急激な呼吸不全の進行が認められた場合は、基本的な方針として “早めの挿管、しっかり鎮静、必要に応じた筋弛緩” が推奨される。
患者が自身で腹臥位を取ると酸素化が改善する
- Caputo ND, Strayer RJ, Levitan R. Early Self-Proning in Awake, Non-Intubated Patients in the Emergency Department: A Single ED’s Experience during the COVID-19 Pandemic. Acad. Emerg. Med. Apr. 22, 2020 doi:10.1111/ACEM.13994
ニューヨーク・ブロンクス地区にある救命救急部門で COVID-19 を疑う低酸素血症の 50 例を対象とし、患者に 5 分間の腹臥位をとってもらうことで酸素化の改善を期待した。トリアージの際の酸素飽和度の中央値は 80%(IQR 75% – 90%)であったが、5 分間の腹臥位をとった後の酸素飽和度は中央値 94%(IQR 90% – 95%)と有意に改善した。改善しなかった 13 例(24%)は到着後 24 時間以内に気管内挿管が必要となった。
検査診断
鼻腔スワブ RT-PCR 検査の感度は 60% 程度
- Wang W, Xu Y, Gao R, et al. Detection of SARS-CoV-2 in Different Types of Clinical Specimens. JAMA Mar. 5, 2020 doi:10.1001/jama.2020.3786
中国・湖北省、山東省、北京市の 3 病院から COVID-19 患者 205 例から採取した 1,070 検体の検討によると、RT-PCR による SARS-CoV-2 陽性率は、気管支肺胞洗浄液 93%(14/15)、喀痰 72%(72/104)、鼻腔スワブ 63%(5/8)、気管支鏡ブラッシング 46%(6/13)、咽頭スワブ 32%(126/398)、糞便 29%(44/153)、血液 1%(3/307)、尿 0%(0/72)であった。
予後を規定するバイオマーカー
血清トロポニン値が上昇している症例は重症化する
- Shi S, Qin M, Shen B, et al. Association of Cardiac Injury with Mortality in Hospitalized Patients with COVID-19 in Wuhan, China. JAMA Cardiol. Mar. 25, 2020 doi:10.1001/jama
武漢大学人民医院に入院した COVID-19 症例 416 名の中で血清トロポニン値上昇が 82 例(19.7%)に認められた。非上昇例と比較して高齢(74 才 vs. 60 才)であり、高血圧症例(59.8% vs. 23.4%)が多く、ARDS(58.5% vs. 14.7%)や AKI(8.5% vs. 0.3%)の合併も高頻度で、致死率(51.2% vs. 4.5%)も高かった。
入院時 D-ダイマー値は院内死亡の予測因子である
- Zhang L, Yan X, Fan Q, et al. D-dimer levels on Admission to Predict In-Hospital Mortality in Patients with COVID-19. J. Thromb. Haemost. Apr. 19, 2020 doi:10.1
武漢亜総医院に入院した COVID-19 患者 343 症例の中で 67 例に D-ダイマー 2 mg/mL 以上の上昇があり、上昇群と非上昇群の院内死亡率に有意差(12/67 vs. 1/267)が認められた。
臨床経過
ニューヨーク市周辺の COVID-19 入院 5,700 例の属性、基礎疾患、予後
- Richardson S, Hirsch JS, Narasimhan M, et al. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes among 5700 Patients Hospitalized with COVID-19 in the New York City Area. JAMA Apr. 24, 2020 doi:10.1001/jama.2020.6775
ニューヨーク市周辺の 12 病院に 2020 年 3 月 1 日から同 4 月 4 日までの約 1 か月間に COVID-19 で入院した 5,700 例の検討。年齢中央値 63 才(IQR 52 – 75 、年齢幅 0 – 107)、高血圧(3,026 例、56.6%)、肥満(1,737 例、41.7%)、糖尿病(1,808 例、33.8%)などの背景あり。
予後が明らかとなった 2,634 例を対象とすると、ICU 管理 373 例(14.2%)(年齢中央値 68 才(IQR 56 – 78)、女性 33.5%)、侵襲的呼吸管理 320 例、腎代替療法。死亡 553 例。
4 月 4 日時点で人工呼吸器管理が必要であった 1,151 例(20.2%)について検討すると、生存退院は 38 例(3.3%)のみ。死亡例は 282 例(24.5%)で 831 例(72.2%)は入院のままであった。
COVID-19 による健康被害が甚大なニューヨーク市周辺では 65 才超で人工呼吸器管理が必要になると致死率は 97.2% と極めて高い数字であった。
ニューヨーク市の地域による COVID-19 の入院と死亡のバラツキ
- Wadhera RK, Wadhera P, Gaba P, et al. Variation in COVID-19 Hospitalizations and Deaths across New York City Boroughs. JAMA Apr. 29, 2020 doi:10.1001/jama.2020.7197
ブロンクス、ブルックリン、マンハッタン、クイーンズ、スタッテン島の地区ごとに検討すると、最も貧困率の高く、白色人種比率の低いブロンクス(貧困率 38.3% 、白色人種比率 25.1%)で COVID-19 による死亡率が人口 100,000 人あたり 224 と最も高かった。最も貧困率の低く、白色人種比率の高いスタッテン島(貧困率 11.4% 、白色人種比率 75.1%)では COVID-19 死亡率は 143 と低かった。最も死亡率の低いマンハッタン(死亡率 122)の貧困率は 15.5% 、白色人種比率は 59.2% であった。
米国において COVID-19 は社会格差を反映する疾患である可能性がある。
治療薬
レムデシビルは有効?
- Grein J, Ohmagari N, Shin D, et al. Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19. New Engl. J. Med. Apr. 10, 2020 DOI:10.1056/NEJMoa2007016
ギリアード社から提供を受けたレムデシビルの救済使用に関する報告である。対象は SARS-CoV-2 が確認されて、室内気呼吸時の酸素飽和度が 94% 以下または酸素投与が必要であり、クレアチニン・クリアランス 30 mL/min. 超かつ高度肝機能異常を認めない症例である。レムデシビルは初日に 200 mg 静注、その後 2 日目から 10 日目までは連日 100 mg 静注投与とされた。米国、ヨーロッパ、カナダ、日本から症例が登録されて、データの揃った 53 例について解析したところ、36 例(68%)に酸素化改善を認め、人工呼吸器管理の 30 例では 17 例(57%)が抜管できた。人工呼吸器管理および ECMO 管理の 34 症例では 6 例(18%)が死亡、その他の 19 例では 1 例(5%)が死亡した。
レムデシビルは無効?
- Wang Y, Zhang D, Du G, et al. Remdesivir in Adults with Severe COVID-19: a Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. Lancet Apr. 29, 2020 https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31022-9
中国湖北省で実施された多施設共同無作為化二重盲検臨床試験であり、対象は 18 才以上、SARS-CoV-2 が確認されて、発症から 12 日以内、室内気呼吸時の酸素飽和度が 94% 以下または PaO2/FIO2 比 300 以下であり、画像検査により肺炎像が認められる症例である。肝硬変または高度肝機能異常、クレアチニン・クリアランス 30 mL/min. 未満などは除外されて、LPV/rtv 、インターフェロン、全身的ステロイド投与の併用は許可された。
レムデシビル投与群 158 例、プラセボ群 79 例を比較したところ、組み入れ 28 日以内の臨床的な改善に有意差は認められなかった(ハザード比 1.25(95% CI 0.87 – 1.75))が、発症 10 日以内に限れば有意差はないもののレムデシビル投与群の臨床的改善が早い傾向にあった(ハザード比 1.52(95% CI 0.95 – 2.43))。
レムデシビル投与群は 18 例(12%)が副作用のために投与中止となった(プラセボ群は 4 例(5%)が中止)。
ヒドロキシクロロキン(HCQ)とアジスロマイシン(AZM)の併用が有効?
- Gautret P, Lagier J-C, Parola P, et al. Hydroxychloroquine and Azithromycin as a Treatment of COVID-19: Results of an Open-Label Non-Randomized Clinical Trial. International J. Antimicrob. Agents Mar. 20, 2020 https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2020.105949
COVID-19 入院症例を対象として、ヒドロキシクロロキン(HCQ) 200 mg 経口 1 日 3 回投与を 10 日間で治療した 20 例と投与されなかった 16 例を比較したところ、治療 6 日目で SARS-CoV-2 が検出されなかったのが HCQ 群で 70% 、非投与群で 12.5% であった。HCQ 投与にアジスロマイシン 5 日間投与を併用した 6 例ではさらに治療効果が優れていた。なお、この研究は非盲検であり、無作為化研究でもない。
註: HCQ は全身性エリテマトーデス(SLE)の治療薬であり、世界的にはマラリア治療薬としても使用される。SLE の治療としては 1 回 200 mg または 400 mg を 1 日 1 回投与とされて、クレアチニン・クリアランス 10 mL/min. 以上で投与量調整の必要はない。副作用のチェックとして眼科診察が求められる。
クロロキン(CQ)は無効?
- Borba MGS, Val FFA, Sampaio VS, et al. Effect of High vs Low Doses of Chloroquine Diphosphate as Adjunctive Therapy for Patients Hospitalized with Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Infection: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2020; 3 (4.23): e208857 doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.8857
ブラジル(アマゾン)マナウスの専門(三次)医療病院における無作為化二重盲検第 IIb 相臨床試験であり、COVID-19 成人患者 81 症例を対象に、高用量 CQ 投与群(600 mg PO bid X 10 日間)と低用量 CQ 投与群(初日に 450 mg PO bid 、その後は 450 mg PO qd X 4 日間)を比較した。高用量 CQ 投与群 41 例の方が高齢(平均年齢 54.7 才 vs. 47.4 才)かつ心疾患が多かった(17.9% vs. 0%)。13 日目までの致死率は高用量投与群の方が高く(39.0% vs. 15.0%)、500 msec. 超の QT 延長の合併頻度も高かった(18.9% vs. 11.1%)。
ヒドロキシクロロキン(HCQ)に QT 延長のリスク
- Mercuro NJ, Yen CF, Shim DJ, et al. Risk of QT Interval Prolongation Associated With Use of Hydroxychloroquine With or Without Concomitant Azithromycin Among Hospitalized Patients Testing Positive for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). JAMA Cardiol. May 1, 2020 doi:10.1001/jamacardio.2020.1834
- Bessière F, Roccia H, Delinière A, et al. Assessment of QT Intervals in a Case Series of Patients With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Infection Treated with Hydroxychloroquine Alone or in Combination with Azithromycin in an Intensive Care Unit. JAMA Cardiol. May 1, 2020. doi:10.1001/jamacardio.2020.1787
COVID-19 治療としての HCQ 投与では約 20% から 30% の症例で心電図上の QT 延長が認められ、とくに AZM 併用例では QT 間隔がさらに延長する傾向が認められた。
ロピナビル/リトナビル(LPV/rtv)の有効性は示されず
- Cao B, Wang Y, Wen D, et al. A Trial of Lopinavir-Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19. N. Engl. J. Med. Mar. 18, 2020 DOI:10.1056/NEJMoa2001282
武漢・金銀潭病院で COVID-19 検査確定 199 例を対象とした無作為化非盲検対照研究であり、LPV/rtv 投与(LPV/rtv 400 mg/100 mg PO bid X 14 日間)99 例と非投与 100 例に割り付けて検討されたが、ITT 分析では LPV/rtv 投与群の臨床的な改善が 1 日早かった(ハザード比 1.39 、95% CI 1.00 – 1.91)が、プロトコール群では差はなく(ハザード比 1.24 、95% CI 0.90 – 1.72)、28 日死亡率にも有意差はなかった(19.2% vs. 25.0%)。なお、LPV/rtv 投与群の副作用発現頻度は 13.8% であった。
註: LPV/rtv は HIV 感染症の治療にかつてよく利用された HIV プロテアーゼ阻害薬である。
ファビピラビル(アビガンR)は有望
- Cai Q, Yang M, Liu D, et al. Experimental Treatment with Favipiravir for COVID-19: A Open-Label Control Study. Engineering Mar. 18, 2020 https://doi.org/10.1016/j.eng.2020.03.007
深圳第三人民医院において COVID-19 検査確定例を対象とした非盲検比較対照研究であり、ファビピラビル(FPV)投与群 35 例は初日に FPV 1600 mg PO bid 、2 日目から 14 日目まで 600 mg PO bid にエアロゾル IFN-a 5 MU 吸入 1 日 2 回を併用、LPV/rtv 投与群 45 例は 14 日間の LPV/rtv 400 mg/100 mg PO bid にエアロゾル IFN-a 5 MU 吸入 1 日 2 回を併用したところ、FPV 投与群ではウイルス消失も早く(4 日(IQR 2.5 – 9 日) vs. 11 日(IQR 8 – 13 日))、胸部画像所見の改善も有意であった(91.43% vs. 62.22%)。
COVID-19 の治療に関する臨床研究
- Ito K, Ohmagari N, Mikami A, et al. Major Ongoing Clinical for COVID-19 Treatment and Studies Currently Being Conducted or Scheduled in Japan. Global Health & Med. Apr. 29, 2020 DOI:10.4
COVID-19 治療として、4 月 2 日時点で clinicaltrials.gov に記載の 48 件の臨床試験(レムデシビル(6 件)、LPV/rtv(6 件)、HCQ(6 件)、インターフェロン(5 件)、メチルプレドニソロン(3 件)、一酸化窒素(NO)ガス(3 件)、オセルタミビル(2 件)、アルビドール(2 件)、ビタミン C(2 件))とともに、国内の臨床治験(LPV/rtv 、レムデシビル、ファビピラビル、シクレソニド、ナファモスタット)を紹介している。
多彩な臨床像
嗅覚・味覚異常
- Giacomelli A, Pezzati L, Conti F, et al. Self-Reported Olfactory and Taste Disorders in Patients with Severe Acute Respiratory Coronavirus 2 Infection: A Cross-Sectional Study. Clin. Infect. Dis. Mar. 26, 2020 DOI:10.1093/cid/ciaa330
- Spinato G, Fabbris C, PoleselJ, et al. Alterations in Smell or Taste in Mildly Symptomatic Outpatients with SARS-CoV-2 Infection. JAMA Apr. 22, 2020 doi:10.1001/jama.2020.6771
- Luers JC, Rokohl AC, Loreck N, et al. Olfactory and Gustatory Dysfunction in Coronavirus Disease 19 (COVID-19). Clin. Infect. Dis. May 1, 2020 pii: cia525. doi:10.1093/cid/ciaa525 [Epub ahead of print]
COVID-19 症例は 30% から 70% の頻度で嗅覚・味覚異常を合併するが、必ずしも初発症状ではないようである。ほとんどが嗅覚と味覚のいずれにも異常を認めるが、まれに味覚異常のみを訴えることもあるようだ。
重症 SARS-CoV-2 感染症における神経学的所見
- Helms J, Kremer S, Merdji H, et al. Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection. N. Engl. J. Med. Apr. 15, 2020 DOI:10.1056/NEJMc2008597
フランス・ストラスバーグの ICU からの報告によると、重症 COVID-19 患者 64 例の検討で、脳脊髄液から SARS-CoV-2 が検出されなくても、58 例に脳症、錐体路症状、前頭側頭葉血流低下などの病態が認められた。
COVID-19 では(とくに ICU で)静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高い
- Middeldrop S, Coppens M, van Happs TF, et al. Incidence of Venous Thromboembolism in Hospitalized Patients with COVID-19. J. Thromb. Haemost. May 5, 2020 doi:10.1
アムステルダム大学医療センターに入院した COVID-19 患者 198 例について、入院 7 、14 、21 日目の VTE 合併率は、ルーチンの予防策にも関わらず、それぞれ 16% 、33% 、42% であった。とくに ICU 入室 75 例(38%)ではそれぞれ 26% 、47% 、59% であった。VTE 合併は死亡のリスクを高めた(ハザード比 2.4)。
レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系阻害薬の影響
中国・武漢における COVID-19 の予後とレニン・アンギオテンシン系阻害薬の関係
- Li J, Wang X, Chen J, et al. Association of Renin-Angiotensin System Inhibitors with Severity or Risk of Death in Patients with Hypertension Hospitalized for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Infection in Wuhan, China. JAMA Cardiol. Apr. 23, 2020 doi:10.1001/jama
武漢中心医院で 1,178 例の COVID-19(年齢中央値 55.5 才)を対象に調査したところ、高血圧は 362 例(30.7% 、年齢中央値 66.0 才)であり、ACE 阻害薬または ARB を服用していたのは 115 例(31.8%)であった。全体の院内致死率 11.0% に対して高血圧があると 21.3% であった。ACEIs/ARB 服用群については重症例と非重症例(32.9% vs. 30.7%)、死亡例と生存例(27.3% vs. 33.0%)で有意差は認められなかった。
ニューヨークにおける COVID-19 の予後とレニン・アンギオテンシン系阻害薬の関係
- Reynolds HR, Adhikari S, Pulgarin C, et al. Renin-Angiotensin-Aldosterone System Inhibitors and Risk of Covid-19. N. Engl. J. med. May 1, 2020 DOI8975
ニューヨーク大学の関連施設で COVID-19 検査を受けた 12,594 例、その中の陽性例 5,894 例(46.8%)、重症例 1,002 例(17.0%)を対象とした調査であり、高血圧 4,357 例(34.6%)の中の陽性例は 2,573 例(59.1%)、重症例は 634 例(24.6%)であった。服用している降圧薬のクラスによる陽性率や重症化の頻度には有意差は認められなかった。
心疾患、治療薬と COVID-19 による死亡
- Mehra MR, Desai SS, Kuy SR, et al. Cardiovascular Disease, Drug therapy, and Mortality in Covid-19. N. Engl. J. med. May 1, 2020 DOI
アジア、ヨーロッパ、北米の 169 病院が参加するデータベースから抽出された COVID-19 症例の中で、予後が明らかになっている 8,910 例を対象とした研究である。生存退院 8,395 例と院内死亡 515 例の比較検討から、死亡リスクは男性、65 才以上、心不全、COPD 、喫煙で高くなり、ACE 阻害薬はオッズ比 0.33(95% CI 0.20 – 0.54)、ARB はオッズ比 1.23(95% CI 0.87 – 1.74)と ACE 阻害薬はむしろ重症化を抑制していた。
オハイオとフロリダにおける COVID-19 の予後とレニン・アンギオテンシン系阻害薬の関係
- Mehta N, Kalra A, Nowacki AS, et al. Association of Use of Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin II Receptor Blockers with Testing Positive for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). JAMA Cardiol. May 5, 2020 doi:10.1001/jama
オハイオ州とフロリダ州のクリーブランドクリニック関連施設で COVID-19 検査を受けた 18,472 例を対象とし、ACEIs/ARBs 服用は 2,285 例(12.4%)であった。全体では 1,735 例(9.4%)が陽性、421 例(24.3%)が入院、161 例(9.3%)が ICU 入室、111 例(6.4%)が人工呼吸器管理となったが、ACEIs/ARBs 服用との関連は認められなかった。COVID-19 検査陽性となる傾向スコア調整オッズ比は 0.97(95% CI 0.81 – 1.15)であった。
感染伝播経路
発症 2 日前から発症直後に感染伝播力が強い
- He X, Lau EHY, Wu P, et al. Temporal Dynamics in Viral Shedding and Transmissibility of COVID-19. Nature Med. April 15, 2020 https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5
COVID-19 の診断が確定した 94 例を対象に繰り返し咽頭スワブ 414 検体を採取し、SARS-CoV-2 ウイルス量を経時的に測定するとともに、感染伝播が確認された 77 ペアの接触歴を確認して、実証的に発症 48 時間前から発症直後に最も感染力が強く、発症後 7 日までに急激に低下することを示した。
発症 5 日以降の感染伝播力が極めて弱い
- Chen HY, Jian SW, Liu DP, et al. Contact Tracing of COVID-19 Transmission Dynamics in Taiwan and Risk at Different Exposure Periods before and after Symptom Onset. JAMA Intern. Med. May 1, 2020 doi:10.1001/jama2020
台湾 CDC が COVID-19 診断確定 100 例とその濃厚接触者 2,761 例、感染伝播事例 22 件を調査し、2 次感染率は発症から 5 日目まで 1.0%(22/1,818 、95% CI 0.6% – 1.6%)、発症から 5 日以降は 0%(0/852 、95% CI 0% – 0.4%)を示した。なお、同居者は 4.6% 、非同居家族は 5.3% であり、医療従事者の曝露などに比較して感染成立率が高かった。年齢別は 40 才から 59 才(1.1%)と 60 才以上(0.9%)が高率であった。
発症前あるいは無症候性の感染伝播の重要性
- Arons MM, Hatfield KM, Reddy SC, et al. for the Public Health-Seattle and King County and CDC COVID-19 Investigation Team. Presymptomatic SARS-CoV-2 Infections and Transmission in a Skilled Nursing Facility. N. Engl. J. Med. Apr. 24, 2020 DOI
ワシントン州キング群にある 116 床の老人介護施設。最初の COVID-19 症例が認められて 23 日後の調査では入居者 89 名の中で 57 名(64%)が SARS-CoV-2 陽性であった。
ある時点の入居者 76 名について確認すると、48 名(63%)が陽性、このとき 27 名(48%)は無症状であった。その後、中央値 4 日後に 24 名が COVID-19 を発症した。
有症状者のみを対象とした感染防止対策では SARS-CoV-2 の感染伝播拡大を阻止することができなかった。
気道系や血清より糞便の方がウイルス検出が長く、重症例ほど気道系からのウイルス検出が長い
- Zheng S, Fan J, Yu F, et al. Viral Load Dynamics and Disease Severity in Patients with SARS-CoV-2 in Zhejiang Province, China, January – March 2020: Retrospective Cohort Study. BMJ Apr. 6, 2020; 369: m1443 http://dx.doi.org/10.1136bmj.m1443
浙江大学第一附属医院に COVID-19 で入院した軽症 22 例と重症 74 例から呼吸器系、糞便、血清、尿、合計 3,497 検体を採取した検討によると、糞便からのウイルス検出期間は中央値 22 日間(IQR 17 – 31)であり、呼吸器系検体(18 日間(13 – 29))や血清(16 日間(11 – 21))よりも長かった。
呼吸器系検体については、重症例のウイルス検出期間(21 日間(14 – 30))の方が軽症例(14 日間(10 – 21))よりも長かった。
なお、この研究におけるウイルス検出は RT-PCR により、ウイルス分離培養は実施されていない。
SARS-CoV-2 は精液からも検出される
- Li D, Jin M, Bao P, et al. Clinical Characteristics and Results of Semen Tests among Men with Coronavirus Disease 2019. JAMA Network Open May 7, 2020; 3 (5): e208292 doi
商丘市立医院に入院した 15 才以上の COVID-19 男性患者 38 例を対象に調査したところ、6 例(15.8%)の精液から SARS-CoV-2 が検出された。急性期の検出率が 26.7%(4/15)、回復期が 8.7%(2/23)であった。発症からの最長期間は 16 日間であった。
浸淫率と無症候性保有者の存在
ニューヨーク市の妊婦は 15.3% が SARS-CoV-2 陽性
- Sutton D, Fuchs K, D’Alton M, et al. Universal Screening for SARS-CoV-2 in Women Admitted for Delivery. N. Engl. J. Med. Apr. 13, 2020 DOI:10.1056/NEJMc2009316
ニューヨーク市で 3 月 22 日から 4 月 4 日に出産した妊婦に対する悉皆的調査の結果、15.3%(33/215)が鼻咽頭スワブ SARS-CoV-2 RT-PCR 陽性であった。COVID-19 発症は 15.2%(5/33)であり、その後に陰性者 1 名も発症した。
ボストンのホームレス受入施設では 36.0% が SARS-CoV-2 陽性
- Baggett TP, Keyes H, Sporn N, et al. Prevalence of SARS-CoV-2 Infection on Residents of a Large Homeless Shelter in Boston. JAMA Apr. 27, 2020 doi:10.1001/jama.2020.
ボストンのホームレス受入施設で 3 月 13 日に調査したところ、入所者の 36.0%(147/408)が鼻咽頭スワブ SARS-CoV-2 RT-PCR 陽性であった。なお、有症状者は 12.2%(18/147)であった。
SARS-CoV-2 に対する血清抗体検査の評価
- Sethuraman N, Jeremiah SS, Ryo A. Interpreting Diagnostic Tests for SARS-CoV-2. JAMA May 6, 2020 doi:10.1001/jama.2002.8259
- Vogel G. First Antibody Surveys Draw Fire for Quality, Bias. Science 2020; 368 (6489): 350-1
SARS-CoV-2 に対する血清抗体検査の評価はまだ確立されておらず、現時点で政策決定の根拠とするのは危うい。
症候性であれ無症候性であれ、SARS-CoV-2 感染事例においてどれくらいの期間にわたり免疫が持続するのか、ということも定かでない。
横浜港停泊クルーズ船総括
ダイアモンド・プリンセス号
- Jimi H, Hashimoto G. Challenges of COVID-19 Outbreak on the Cruise Ship Diamond Princess Docked at Yokohama, Japan: a Real-World Story. Global Health & Med. Apr. 29, 2020; 2: 63-5 DOI:10.
- Tsuboi M, Hachiya M, Noda S, et al. Epidemiology and Quarantine Measures during COVID-19 Outbreak on the Cruise Ship Diamond Princess Docked at Yokohama, Japan in 2020: a Descriptive Analysis. Global Health & Med. Apr. 29, 2020; 2: 102-6 DOI:10.7
- Rocklöv J, Sjödin H, Wilder-Smith A. COVID-19 Outbreak on the Diamond Princess Cruise Ship: Estimating the Epidemic Potential and Effectiveness of Public Health Countermeasures. J. Travel Med. Feb. 28, 2020 DOI:10.1093/jtm/taaa030
2020 年 2 月 5 日から同 23 日まで、クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号は横浜港に停泊のままで検疫を受けることとなり、乗客 2,666 名と乗員 1,045 名の合計 3,711 名について、結果的に SARS-CoV-2 陽性例が 712 名に至る結果となった。検疫の経過と顛末が厚生労働副大臣と厚生労働政務官により英文で報告されており、国立国際医療研究センターからその中の発熱症例 403 名の記述疫学が記載されている。
数理モデル解析によれば、船内における流行当初の基本再生産数 R0 は 14.8 に及んだと推定されており、適切な介入がなければ乗員・乗客の 2920 名(79%)が感染した可能性が示唆されており、隔離と検疫の効果により R0 は 1.78 まで低下したとされる。
その他
SARS-CoV-2 が 2019 年 12 月下旬には既にフランスに?
- Deslandes A, Berti V, Tandjaoui-Lambotte Y, et al. SARS-CoV-2 Was Already in France in late December 2019. International J. Antimicrob. Agents May 3, 2020 https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2020.106006
パリ第 13 大学セン・サン・デニ病院 ICU へ肺炎、リンパ球数減少、CRP 上昇などで2019 年 12 月 25 日に ICU 入室となり、抗菌薬投与で軽快して 12 月 29 日に退室した 42 才 アルジェリア出身男性の呼吸器系保存検体が SARS-CoV-2 RT-PCR 陽性となった、とのこと。