TOP / 学会の動向 / 新型感染症COVID-19の出現を受けて

新型感染症COVID-19の出現を受けて

著者

COI(利益相反)

このページは日本医師会のご支援により2020年度に作成されました
(c)日本医師会

ー日本感染症学会の取り組みー

注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 2019年12月末、中国武漢市において報告された新型コロナウイルス感染症COVID-19。今では世界210か国、感染は350万人に広がり、25万人以上の死亡が報告されている。
  • このような状況の中、同年1月末に日本感染症学会のホームページに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が立ち上げられ情報提供を開始している。
  • 特に、クラスター情報の提供、検査法の性能評価、臨床治験へのご協力の重要性のご理解とご協力をお願いしたいと考えている。
  • また、以下現在学会員などで話題になっている課題・トピックについて記載している。日常診療と病態の理解の参考にしてほしい。

掲載の内容:

  1. COVID-19への対応について(医療従事者の方へ、一般市民の方へ)
    • 「水際対策から感染蔓延期に向けて」
    • 「医療現場の混乱を回避し、重症例を救命するために」
    • 「感染蔓延期における医療体制の在り方とお願い」
    • 医療従事者の方へ
      • 「COVID-19に対する薬物治療の考え方」(第一版2月26日、第二版5月1日)
      • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する胸部CT検査の指針(Ver.1.0)
    • 一般市民の方へ
      • 新型コロナウイルス感染症に対する注意事項
  2. 学会からのお願い
  3. 症例報告
  4. 関連情報リンク

はじめに

2019年12月末、中国武漢市において報告された新型コロナウイルス感染症COVID-19。今では世界210か国、感染は350万人に広がり、25万人以上の死亡が報告されている。日本では2020年1月16日に最初の症例が報告されて以来、5月5日の時点で感染者15,000例以上、死者も500例を超えている。1月から2月にかけて、誰も経験したことのない新型感染症との遭遇に戦々恐々とし、手探りの中での診療がスタートした。このような状況の中、同年1月末に日本感染症学会のホームページに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が立ち上げられた【図表1】[1]。

図表1
日本感染症学会ホームページ:新型コロナウイルス感染症への対応について
1月28日から現在までに12編の提言・方針・考え方が発表されている。

ホームページの構成

ホームページの構成は、下記の構成となっている。

  • (1)COVID-19への対応について(医療従事者の方へ、一般市民の方へ
  • (2)学会からのお願い
  • (3)症例報告
  • (4)関連情報リンク

(1)COVID-19への対応について

(1)COVID-19への対応の項では、1月28日「新型コロナウイルス感染症への対応」、2月28日には「水際対策から感染蔓延期に向けて」、4月2日「医療現場の混乱を回避し、重症例を救命するために」、そして4月24日には「感染蔓延期における医療体制の在り方とお願い」が発表されている。その他に、確立した治療薬がない中での有効性が期待される薬剤の使用に関して「COVID-19に対する薬物治療の考え方」(第一版2月26日、第二版5月1日)が発表された【図表2】。

図表2
感染蔓延期に求められるPCR検査の実施フロー
PCR検査のキャパシティーが限られている状況の中で、重症者の救命を第一に指定医療機関→公的検査機関による検査が行われていた(左側)。感染蔓延期を迎え、PCR検査のキャパシティーの増加がみられる状況で、一般医療機関→民間検査センターによる検査が実施されるようになっている(右側)。

(2)学会からのお願い

(2)学会からのお願いの項では、下記の情報が共有されている。

  • 1:クラスター情報提供、
  • 2:技術協力、臨床治験のお願い

1:情報クラスター対策は本感染症の制圧において極めて重要な役割を果たしている。11,000人の感染症学会のネットワークを活用し、できるだけ早期に新しいクラスターを検出できるよう、会員の先生方のご協力をお願いさせていただいた。

他、現在、PCRなどの遺伝子診断法に加えて、抗体・抗原検出系に関してさまざまなキットが考案されている。行政との連携のもと、それぞれの検査法の性能評価が進行中である。また、治療薬に関する臨床治験に関しては、吸入ステロイドのシクレソニドの観察研究に加え、抗インフルエンザ薬ファビピラビルの特定臨床研究・観察研究などが平行して進行中である。これらについてのお願いも記載されている。

1)感染者およびその行動歴の把握
新型コロナウイルス感染症の診断がついた症例のうち、特に感染経路が不明の者がみられた場合には、クラスターの同定につながる可能性のある情報を収集して新型コロナウイルス疫学解析チーム事務局に報告する。
2)クラスター発生が疑われる場合の対応
クラスター発生が疑われるようなリンクの可能性のある情報が得られた場合には、自治体・保健所・医師会・ 医療機関などと共有し、実際のクラスターの発見につなげる。これら情報に関しても新型コロナウイルス疫学解析チーム事務局に連絡する。
3)確定診断が得られていない疑い症例の察知
新型コロナウイルス感染症が疑われているものの確定診断に至っていない症例(両側のウイルス性肺炎疑いで、感染の可能性 が高い症例)がみられた場合にも新型コロナウイルス疫学解析チーム事務局に連絡して対応を検討する。

(3)COVID-19症例報告

COVID-19は新型病原体による感染症であり、我々にとって初めて診る感染症であった。その臨床症状は? 血液検査、肺炎画像の特徴は? どのような治療・対応が効果的であるのか? もちろん、大規模登録による前向き臨床試験による検討がより信頼度の高い情報を提供することは周知の事実である。

しかし、目の前の新型感染症患者のためにも、一刻も早く本邦で経験された臨床情報を共有したいという思いから、(3)症例報告の項が立ち上げられた。これまでに100編を超える論文を登録いただき、その中にはファビピラビル、レムデシビル、シクレソニドなどが本邦で初めて投与された症例も含まれている。大変お忙しい中、症例をまとめて下さった多くの先生方に改めてお礼を申し上げたい【図表3】。

図表3
新型コロナウイルス感染症 症例報告
これまでに100編以上の論文が投稿されており、本邦でのオルベスコ、ファビピラビル、レムデシビル投与例の臨床経過・有効性などに関する情報が共有されている。

COVID-19をめぐる課題・トピックス

以下現在学会員などで話題になっている課題・トピックについて記載していきたい。

①診断

COVID-19の診断、病態、治療、予防に関して現時点の課題・トピックスに関して概説する。

COVID-19の診断に関して、遺伝子検査の臨床適応や新しい検査技術に関していくつかの展開がみられている。

これまでCOVID-19の遺伝子検査に関してはキャパシティーの問題が大きく、その適応は重症化の可能性の高い宿主を優先に行政検査として実施されてきた。

しかし最近では民間検査センターの協力も得られるようになり、図表2の右側に示すように、医師が必要と判断した症例に対してよりスムーズに検査が実施できる体制に移行しつつある。また、遺伝子検査に加えて、血液を用いた抗体検査、呼吸器検体を用いた抗原検査の開発が進行中である。特に唾液中に本ウイルスが多量に存在することが報告され、唾液を用いた抗原検査に注目が集まっている。唾液であれば比較的安全に検体を採取することができ、一般医療機関での検査がよりスムーズになるものと思われる。

②病態

COVID-19の病態、特にその重症化メカニズムは依然として不明である。これまでに報告されている事実として、(1)高齢者で明らかに死亡率が高い(乳児、小児での死亡率が低い)、(2)死亡例で循環器障害・凝固系異常が高率にみられる、(3)HIV感染患者で重症例が報告されてこない、などが重要と思われる。

インフルエンザでは高齢者とともに小児で死亡例が多いのに対し、COVID-19では幸いなことに、小児での死亡率は低い。高齢者では(2)循環器障害・凝固異常に関連する基礎疾患を有する宿主が多いことが関連しているのかもしれない。HIV感染症患者で重症例が報告されてこないことも興味深い。本症では過剰なサイトカインの産生、いわゆるサイトカイン・ストームの病態が指摘されているが、HIV患者でみられる細胞性免疫の低下は重症化要因にならないのであろうか。ステロイド、生物学的製剤などの投与とCOVID-19重症化との関連に関しても注意深く検討していく必要がある。

③治療

COVID-19の特異的な治療薬はまだ開発されていない。現在、レムデシビル、ファビピラビル、シクレソニド、トシリズマブなどの薬剤の有効性が検討されている段階である。

レムデシビル(ベクルリー)はエボラウイルス感染症に対する治療薬として開発された薬剤であり、ウイルスのRNA合成を阻害することにより効果を発揮する。米国での承認を受けて、国内でも早々に承認される予定であるが、その有効性に関しては引き続き注意深い評価が必要であると思われる。

ファビピラビル(アビガン)は抗インフルエンザ薬として本邦で開発された薬剤であり、同様にRNA合成阻害により抗ウイルス作用を示すと考えられている。副作用として胎児に対する催奇形性、肝障害などが報告されており注意する必要がある。

シクレソニド(オルベスコ)は喘息の治療で用いられる吸入ステロイド剤、トシリズマブ(アクテムラ)はリウマチ治療で使用される抗IL-6抗体製剤である。前述したように、COVID-19ではサイトカイン・ストームが重症化に関与しているという報告もあり、これら薬剤の有効性が期待されており、臨床試験が進行中である。

④予防

世界中の研究機関、製薬企業がCOVID-19に対するワクチン開発を行っている。しかし残念ながら、現時点で臨床治験段階まで進行したワクチンは報告されていない。世界各国が共同してワクチン開発を支援する動きもみられており、2020年内における臨床応用が期待されている。

一方で、本ウイルスの重要な伝播様式として、通常の飛沫感染で問題となる咳・くしゃみに加えて、おしゃべりや激しい息遣いなどで生じるマイクロメーター程度の小さな飛沫の関与が示されている。

これまでの疫学情報からも、近距離での会話、特に飲酒時の濃厚接触が本ウイルスの伝播に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。これらの知見をもとにキャバレー、ライブハウス、スポーツジム、カラオケなどに対する自粛要請が強化されている。本ウイルスの伝播様式とそれを高める状況(密閉、密集、密接)を正しく理解し、感染のリスクを可能な限り低下させる行動変容が必要である。

おわりに

COVID-19の終息には時間がかかるとの予想通り、5月31日までの緊急事態宣言の延長が発表された。COVID-19は、人類にとって避けられない新型病原体との遭遇という歴史の1ページであり、長期的な戦略と市民の行動変容が求められている。COVID-19の次にどのような新しい感染症が出現するのかは誰にも分からない。COVID-19の経験をどのように次に生かすことができるのか、私たちの英知が試されている。

その他の主要な参考文献・ガイドライン

[引用文献]

関連記事